Brawther
フランス・パリ出身、現在はポルトガルのリスボンに居住するプロデューサー/DJ、Brawtherは、シカゴやニュージャージーのディープハウスに根差した温かい質感と、現場で機能する推進力を両立させてきた。
*Brawther – The Ransom Note Mix
キャリア初期はIzmo名義でも活動し、その流れを受けて2009年にRon TrentとChez DamierによるPrescriptionのサブラインであるBalanceのサブレーベル、Balance Allianceから発表した12インチ『Untitled』で評価を確立する。柔らかなパッドと抑制の効いたドラムによって自身の方向性を決定づけた代表作と評され、以降の作風の礎になった。
*Brawther – Endless (Deep Mix)
日本産のハウスフリークとしても知られるBrawther。2015年にはAlixkunとともに日本の初期ハウス/ディープハウスの再評価コンピレーション『Once Upon a Time in Japan』を共同キュレーションしている。日本のハウス黎明期の重要トラック群を掘り起こしたもので、日本のディープハウスを世界へ届ける架け橋ともなった。寺田創一の世界的再評価にも、彼のミックスが大きく影響した。
*Brawther & Alixkun – ハウス Once Upon A Time In Japan…
彼のディープハウス解釈は、90年代の質感を現代のフロアに通じる形で洗練させることに長けている。ロンドンのsecretsundazeからリリースされた『Do It Yourself EP』は、レコードショップの現場目線から高い支持を集めた。2018年には自身のレーベルNegentropyからアルバム『Transient States』を発表。Resident Advisorは「米国のヒーローたちに目配せする、温かくクラシックなサウンド」という彼のコアを踏まえつつ、アルバムが彼のアプローチの変化を示す作品だと評している。
*Brawther – Do It Yourself – SECRET001
My Love Is Underground、secretsundaze、Cabinetといったレーベルに加え、過去音源をまとめたリイシュー企画やベスト盤も話題に。2022年の『The Best Of Brawther Vol.1』はPhonicaなどでも取り上げられ、代表曲「Negentropy」が再評価の文脈で語られた。
近年のBrawtherのもう一つの重要な顔が、イギリス・リーズを拠点とするTristan da Cunhaとの共同プロジェクトDungeon Meatである。2010年代半ばに始動し、レーベルとしても同名で運営されている。二人が共有するのは「ダンスフロアを真に動かすための純粋な機能美」という哲学であり、そこにハウスの原点的なエネルギーを取り戻す狙いがある。Dungeon Meatのサウンドは、Brawther本来のディープハウス的温度感に、UK特有のグルーヴとストリート感を融合させたもの。骨太でタイトなキック、乾いたパーカッション、抜けのあるベースラインが特徴で、ミニマルハウスやガラージ、テックハウスの要素を掛け合わせた剥き出しのハウスとして評価されている。各レコードショップのレビューでも「ハウスを根源的なリズムと質感へ回帰させた」「削ぎ落としの美学を極めた」と評され、シーン内で確固たる存在感を築いた。以降の作品も、USディープハウスの骨格にUKスピードガラージ由来のバウンスを忍ばせるなど、90年代初期シカゴの粗削りさと10年代以降のヨーロッパ的ミニマリズムを架橋しながら、新世代に通じる硬派でリアルなハウス・スピリットを体現している。
また、Dungeon Meatは、クリエイター支援プラットフォームPatreonを活用し、コアファンと直接つながる独自のコミュニティを運営している。未発表トラックや制作プロセスの共有、限定ミックスなど、アンダーグラウンド性を保ちながら作品の背景に触れられる特別なコンテンツを提供し、レーベル活動とアーティストとしての独立性を支える仕組みとなっている。
DJとしても、イギリスのGlastonbury FestivalやクロアチアのDimensions Festivalなど、ヨーロッパの中規模からアンダーグラウンド志向のフェスにおいて、レコード文脈のディープハウスを現在形で提示できる希少な存在である。日本国内でも田中フミヤ主宰のCHAOSに出演し、大小問わず多様なベニューでローカルDJたちと時間を共有してきた。CHAOSでは最終版に田中フミヤとのB2Bも。
また、次世代アーティストの育成や発掘にも注力している。NegentropyやDungeon Meatを通じて若手プロデューサーのリリースを支援し、インディペンデントな精神で作品を形にするための環境づくりに努めている。彼にとって次世代を育てることは単なるプロデュースではなく、思想を受け渡す行為でもある。商業性に流されず、自分の信じるリズムと感性を貫く。その姿勢を、音と現場の両面で次の世代へと継承している。
Brawtherは、USのクラシックなディープハウス語法を現代のサウンドデザインと職人的ミキシングで磨き上げることに長けたアーティストだ。多様な電子音楽を吸収しながらも、常に適切な量とバランスにフォーカスし、過剰な演出を避けて自然な流れの中で機能するサウンドを追求してきた。コピーや商業的フォーマットへの反発を軸にしながら、彼にとってアンダーグラウンドとはジャンルではなく、感覚と立ち位置、そして信念そのものを意味している。
11月28日から始まる彼のツアー、金沢は11月29日(土)。Mo’Houseは2023年3月以来の海外ゲストを迎えての開催となる。
Brawther Japan Tour 2025
Nov 28 (Fri) Chiba – Nettaiya
Nov 29 (Sat) Kanazawa – ESŐ
Dec 5 (Fri) Kobe – Nagomibar
Dec 6 (Sat) Osaka BAR INC
