(Volodymyr Gnatenko)

Volodymyr Gnatenko

Volodymyr Gnatenkoは、ウクライナ西部の都市ルーツク出身、現在はロンドンを拠点に活動する電子音楽家、ライブパフォーマーである。初期作品や過去の出演記録では、V.Gnatenko、Gnatenko、Vladimir Gnatenkoなどの名義も用いられているが、現在はウクライナ語に即したVolodymyr Gnatenkoの表記を採用している。クラブ向けのテクノやトランス、ブレイクビートだけでなく、アンビエント、ドローン、IDM、ギターを用いたポストロックまでを扱い、機材を組み上げて演奏するライブセットによって評価を築いてきた。

音楽制作の出発点は少年期にある。本人が2018年のCXEMAのインタビューで語ったところによれば、14歳頃のルーツクでシンセウェイヴやウィッチハウスに惹かれ、子ども向け音楽学校を卒業した後、父親からRoland FR-3xの電子アコーディオンを贈られた。そこでMIDIの存在を知り、電子音楽の制作を開始したという。初期に自身を音楽へ導いた存在としてJoy DivisionとSuicideを挙げており、クラブミュージックだけでなく、ポストパンクや実験的ロックからの影響も、その後の活動に残されている。

その後、進学のためキーウへ移ってからは、クラブOtel’へ毎週通うようになり、同所の共同運営者Eugene Kostenkoらと、パーティー後の朝にジャムセッションを重ねた。本人は、最初に大きな音楽的衝撃を受けたパーティーとして、キーウのレイヴ・プラットフォームCXEMAを挙げている。のちにCloserを中心とするコミュニティーに加わり、同クラブのレジデントとしても活動。キーウの独立系クラブカルチャーと、ハードウェアを使った即興的な演奏環境が、彼の制作とライブの基盤になった。

*Vladimir Gnatenko – Boiler Room x CXEMA

最初期の公式リリースとして確認できるのが、2016年5月にウクライナの〈Система/System〉から発表された4曲入り『Wild Ivy EP』。当時の紹介文ではキーウを拠点とするウクライナ人アーティストと記載されている。2018年にはCXEMAのミックスシリーズに『Cxemcast 061』を提供。2019年にはYotam Aflaloとのスプリット盤『Split Artists EP』を〈Twig〉から発表し、国外のレーベルへ活動範囲を広げていった。

*Volodymyr Gnatenko – Cxemcast 061

2020年、Jane FitzがA&Rに関わった英国のレーベル〈Animals On Psychedelics〉から3曲入り『Die Nag EP』をリリースした。同作は空間的なシンセサイザーとトランスの運動性を組み合わせた作品として流通した。2021年には故郷ルーツクのレーベル〈Lss557〉の第1作として『Verlies』を発表し、続いてキーウの〈Rhythm Büro〉から『Sacrim EP』をリリース。この時期にはライブ活動によって評価を高め、CloserやKureniなどキーウの会場で演奏を重ねていた。また、ギターを含むポストロック・プロジェクトHENAを主宰し、電子音楽とは異なる形式での制作も並行している。

*Hena – Hena archive 2020/25 =)

2022年1月には、イタリアの〈Where We Met〉から4曲入り『Storm EP』を発表した。4つ打ちからブレイクビートまでを横断しながら、浮遊感のあるトランス的な音響を一貫して用いた作品である。同年2月、ロシアによるウクライナへの全面侵攻が始まると、Gnatenkoはキーウに残り、Closerに関係する友人たちとスタジオに避難しながら制作を継続した。この時期に、活動名のファーストネーム表記を、ロシア語形のVladimirからウクライナ語形のVolodymyrへ変更することになる。5月、現代のアンダーグラウンドなテクノ、トランス、ブレイクスなどを代表するアムステルダムのレーベル〈Kalahari Oyster Cult〉から初のフルアルバム『Rainalice』を発表した。制作の依頼を受けたのは2021年で、完成時にはパンデミック後の生活と戦争が重なる状況になっていた。全8曲にはアンビエント、ダウンテンポ、ブレイクス、プログレッシブ・トランス、テクノが同居しており、本人は将来の妻に捧げた作品で、各曲を彼女への愛の言葉として制作したと説明している。同年9月にはKai Noobとの『Ayakashi Committee』を〈Animals On Psychedelics〉から発表。日本の妖怪を題材とした曲名を用い、Gnatenkoのソロ曲2曲とKai Noobとの共同制作2曲を収録した。

*Volodymyr Gnatenko – Rainalice (2022 / Kalahari Oyster Cult)

*Kai Noob, Volodymyr Gnatenko – Zashiki-warashi (2022 / Animals On Psychedelics)

2023年には〈Where We Met〉から『2』を発表し、ダウンテンポ、スローブレイクス、IDMへ比重を移した音響を提示した。同年にはウクライナ人プロデューサーSHJVAとのデュオTurbinariaでも活動し、『symbiont』『acidific』『hypnea』『binomial』など複数のデジタル作品を共同制作している。ソロ名義、HENA、Turbinariaを使い分けることで、ダンスフロア向けのセット、リスニング中心の電子音楽、ギター音楽を別々の枠に閉じ込めずに展開していった。2024年3月にはオーストラリアの〈Animalia〉から『AbiaA』をCD/デジタルで発表した。SHJVA「Usu」のリミックスやIlya Semaskevichとの共作を含む全6曲で、ドリーミーなシンセ、ローリングするブレイクス、ダウンテンポを組み合わせている。同年にはロンドンの〈RITMOTHERAPY〉のカタログ第1作『THRPY001』にも登場し、「Noobkai」「Kistana」「Blunariz」の3曲を収録。アシッド、テックハウス、IDM、サイケデリックなブレイクビートを、それぞれ異なる角度から扱った。

*Vladimir Gnatenko Live – Піп Іван, обсерваторія “Білий слон”

〈Kalahari Oyster Cult〉からは2025年にも6曲入りのセカンドアルバム『Mershiy』をリリース。前作より直接的なフロア機能を抑え、1990年代のサイコアコースティック・アンビエントやダブ、IDMを参照しながら、細密な音響とポリリズムを組み立てた作品である。作品全体にはアシッド、トランス、ダブ、点描的な電子音が配置され、繰り返し聴くことを前提とした音響的な細部が重視された。

*Volodymyr Gnatenko – Mershiy LP (2025 / Kalahari Oyster Cult)

2026年に入ってからは8曲入り『Aeryth』を自主発表。秋のロンドンにある寒い部屋で、ギター、Nord Lead、ディストーションを用いて制作された。現在はロンドンを拠点とし、クラブでのハードウェア・ライブに加え、アンビエントや実験音楽のコンサート、ギターを用いる演奏まで活動形式を広げている。

*Volodymyr Gnatenko live – River Sound Festival 2024

そして7月17日から20日にかけて、福島県猪苗代のnowhere CAMPで開催された野外フェスティバル「rural 2026」にも出演し日本初のライブセットを披露した。ウクライナでの初期活動から、キーウのクラブシーン、戦時下での制作、ロンドンへの活動拠点の移行を経て発展させてきた自身の音楽を届けた。ツアー最終日は7月25日にESŐで開催されるSten//rとなる。